http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20061227/p2 より


>経済学部の学生が経済学を勉強しない理由はたくさんあるでしょうが、有力な理由のひとつは経済学を勉強しても現実がわかるようになる気がしないことだと思います。そして、それは正当なことなのです。彼らが書くレポートは経済学的思考にも、論理的思考にもほど遠いものであるでしょうが、彼らだって、いやいやとはいえ、初級の経済学の授業で経済学的思考の重要さなりは耳にしているのです。これも決め付けですが、学生が経済学的思考をしない理由は経済学思考のトレーニング以前に、それをする動機自体不足しているからではないでしょうか。そして、以上の私の推測が正しければ、経済学を勉強しない、経済学的思考を身に着けないという彼らの決定は非常に経済学的にまっとうなものだといわざるをえません。


 まさに、その通りだと思います。さらに、合理的なひとであれば、文型であれば経済学部に進学せずに法学部へ進学した方が望ましいということになるのではないかとおもいます。そもそも、経済学部の存在意義自体、東大等のごく上澄みを除けば、教員の受け皿・法学部にいけかかった(いかなかった)文型受験生の消去法的受け皿・就職のための受験能力のシグナリング、くらいにしか求められないのではないかと思います。
以下、法学部と経済学部(両者は、同じ大学もしくは同レベルの大学と仮定)を比較してみます。(議論の前提として、私はリフレ派(?)に「啓蒙」され、その考えを支持してる、ということを念頭においてください。)

 
 まず、一般企業に就職する場合には、当然ながら、両者は基本的には無差別です。
ただ、企業の法務部門は法学部卒が法律の知識にくわしければ重宝されるでしょう。逆に経済学部が経済学の知識にくわしくても重宝される部署はあまりないでしょう。*1


 次に、資格試験・公務員試験等についてですが、これは法学部卒が有利(=法学部で学んだ法律の知識が役に立つ)だと考えられます。


 法曹・司法書士行政書士・社労士については法学部卒の方が有利でしょう。
 会計士・税理士については、おそらく無差別でしょう。つまり、少なくとも経済学部卒だからって有利になることはあまりないと思います。(経済学の知識が必要となるのは、おそらく会計士試験の選択問題ぐらいです。しかし、その代わりに民法も選択できた気がしますが・・・)


 国Ⅰについては、法律職と経済職を同難易度と仮定すれば(倍率は経済職のほうがおそらく低いでしょうが法律職は記念受験者が結構いるとききますので)、両者は無差別となります。


 それ以外の公務員試験については、経済学系科目についての試験はあるものの、法律系科目の方がやや多い場合が多い場合が普通なので、法学部の方がやや有利でしょう。


 以上から、学生にとってもっとも強いインセンティヴ要因として働くと考えられる、就職への有利さという面からみると、経済学部だからって有利となる場面はほぼ考えられません。合理的な受験生ならば法学部へいったほうがより望ましいでしょう。(だから、ほぼすべての大学での偏差値が法学部>経済学部となっているのかもしれません。これを敷衍すれば、文学部・社会学部系が法学部・経済学部よりも有利になる場面はおそらくないでしょうから、それらの偏差値もより低くなります。)


 次に、「ひとはパンのみに生きるにあらず」とか「理念なしには生きられない」といった調子で、就職へのインセンティヴを抜きに考えてみます。


 ここで、「法律」よりも「経済」の方に興味ある人がいて、大学入学時点では就職のことは興味ないから、やや興味のある経済学部に進学したとします。*2「経済」に興味があるからって経済学部の方が望ましいのでしょうか。この答えの一つとして考えられるのが、大阪さんの言葉を借りれば「リフレ派の人々の啓蒙活動で明らかになったことは、学術論文を書く能力だけでは、現実経済のことがわかるわけではないということです」。*3これが正しいとすれば、学部の講義を聴くより、リフレ派の啓蒙書を読んだ方が、少なくとも学部レベルでは「経済」についてはよく理解できるといったケースが多々発生すると考えられます。当然ながら啓蒙書を読むことは経済学部でなくともできることです。したがって、「経済」についての理解については、少なくとも学部卒レベルでは、経済学部卒とそれ以外では基本的に無差別と考えてよいかと思います。経済学部卒だからって、経済及び経済学に関する知識は経済学部生じゃなくとも身につけられる「啓蒙レベル」かそれにちょっと毛が生えた程度です。*4現に、経済学部卒ではなくとも、現実を分析できる経済学を身につけている人は結構いるはずです。*5
 また、経済学部を卒業すると物事を論理的に考える「経済学的思考」が身に付くと仮定しても、法学部を卒業すれば同様に「リーガルマインド」が身に付くとすれば、「経済学的思考」と「リーガルマインド」の優劣は比較不可能という立場をとれば、両者は無差別です。そもそも、「経済学的思考」を身に付けるにしても、講義なんを聞くより、『ヤバイ経済学』やリフレ派の本を読んだほうがよさそうですが…対して、「リーガルマインド」は、「経済学的思考」のようにお手軽に身に付かないような気がします。実定法の学習を通して初めて身に付くというイメージがあります。偏見があることを承知で極端な例を挙げれば、民法を学べばそれなりに「リーガルマインド」が身に付くようなきがしますが、ミクロ経済学を学んだところで「経済学的思考」が身に付くわけではない気がします。


 また、ごく個人的な経験によるものですが、仕事をする上で法律は何かと顔を出し、「リーガルマインド」があるとすれば役に立つ場面は多々出てきそうですが、「経済学的思考」が必要となる場面はほぼありません。ホワイトカラーの組織においては、ある程度えらくなるか、分析力が必要とされる専門的立場を与えられない限り、「経済学的思考」が必要となる場面はそう多くない、というのが仕事をしてみての実感です。私的な領域を離れて、公的な問題を自分なりに考えるときはもちろん「経済学的思考」も役に立つとはおもってますが。しかし、公的な問題へのコミットメントは私も含め「なんでそんなしんどいことせにゃあかんのというとこがほとんどに人にとってハードル」(by大坂)となって、結構しんどいものかも知れません。結構、私を含めた一般人は、仕事・子育て・介護・家族・恋人・友達関係のことで手一杯じゃないんでしょうか。これが「啓蒙」の難しいところかもしれませんが…


最後に、経済の大学院に進学することを念頭に学部を選ぶ場合について考えてみます。「啓蒙レベル」で飽きたらない人で実践的な「ニュートン力学的(by八田)経済学」や先端の「量子力学的(by八田)経済学」を学びたければ、注で述べた東大・一橋のごく優秀な学部卒の一部の人をのぞいた通常の人は、大学院へ進学しなければならないでしょう。*6大学院への進学の場合は、はじめて例外的に経済学部卒の方が法学部卒より有利になるでしょう。しかし、今度はこの場合では、経済学部は理系(得に物理・数学・工学系?)と無差別になるか、東大(一橋?)を除けばむしろ、理系の方がやや有利かも知れません。数学的基礎をみっちりやれるという意味で。




 以上をまとめれば、経済学部への進学は法学部への進学と比べてほとんどの場合、望ましくないか無差別である、といえそうです。また、経済学部へ行かなくても「啓蒙レベル」であれば「経済」の見方は身につけられそうです。リフレ派等の書物を通して。法学部より経済学部へいった方が有利になる場合があるとすれば、大学院への進学を前提とした場合です。ただその場合でも、理系の学部へいった場合の有利さとたいして違いはなさそうですが。

*1:院卒はとりあえず考慮しません

*2:イコール私?同じ大学の法学部うかってたけど政治経済学部にいってしまいました。出身ばれる?当時は法律も経済もそこまで興味なかったけど経済の方がちょっとだけ興味あったので政治経済学部に進学してしまいました。

*3:余談ですが、八田達夫さんが以前『経済学の潮流』でたしかいってたはずですが、経済学部では工学部的なものと(ニュートン力学)と理学部的なもの(量子力学)が混在していて、両者とも中途半端なうえ、しかも、学部教育なのに後者が重視されていることを批判していた記憶があります。

*4:例外的に、東大や一橋くらいだと、学部卒もしくは一橋の学部修士一貫した5年の教育で、「啓蒙レベル」を超えた専門性を身に付けられるかもしれません。行ったことないので何ともいえませんが。同様に、文学部・社会学部へ行ったからって「啓蒙レベル」を超えた専門性は身につけられない気がします。法学部・経済学部でも、文学および社会学についての「啓蒙レベル」を身につけることは十分可能です。いや、それを身につけることは、文学部・社会学部で法学・経済学を身につけることより、容易なことかもしれません。あくまでも「啓蒙レベル」での話ですが。専門的な知識を身に付けたければ、出身学部に関係なく、大学院へ進学すればよいのではないでしょうか。進学においてはもちろん、文学・社会学部出身者の方が法学・経済学部出身者より有利になるかも知れませんが。また、文学部・社会学部の場合も、経済学の場合と同様に、東大とかだったら、学部卒で例外的に「専門性」を身に付けてる人もいるかもしれませんが。

*5:bewaadさんとか。

*6:少子化により、大学に職をえることは相当むずかしくなっているらしいので、ここでも彼の就職へのインセンティブは考慮しません。